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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)102号 判決 1984年9月28日

原告 協立医療生活協同組合

右代表者理事 三浦重郎

右訴訟代理人弁護士 鶴見祐策

同 山本英司

被告 東京都葛飾都税事務所長 村田達三

右指定代理人 吉田博明

<ほか一名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年一二月二四日付でなした原告の昭和四九年八月三〇日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度及び同年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度に係る各法人事業税の更正はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、消費生活協同組合法に基づいて昭和四九年八月三〇日に設立された法人であって、組合員の疾病予防及び医療活動を行い、もって組合員の生活の文化的経済的改善向上を図ることをその目的としている。

2(一)  原告は、昭和四九年八月三〇日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度(以下「第一事業年度」という。)に係る法人事業税について昭和五〇年五月二九日付で左のような確定申告をした。

(1) 課税標準額 一〇〇〇円

(2) 納付すべき事業税額 〇円

(二) 原告は、昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度(以下「第二事業年度」という。)に係る法人事業税について昭和五一年五月三一日付で左のような確定申告をした。

(1) 課税標準額 一万一〇〇〇円

(2) 納付すべき事業税額 六六〇円

3  被告は、原告の右各事業年度の法人事業税について次のとおりの更正をした。

(一) 第一事業年度について

(1) 課税標準額 二六万円

(2) 納付すべき事業税額 一万五六〇〇円

(二) 第二事業年度について

(1) 課税標準額 一六三万四〇〇〇円

(2) 納付すべき事業税額 九万八〇四〇円

4  原告は右各更正を不服として昭和五二年二月一八日東京都知事に対して審査請求をしたが、同知事は昭和五七年五月六日付でこれを棄却する旨の裁決をし、同裁決書の謄本は同月二二日原告に送達された。

5  しかしながら、右各更正(以下「本件処分」という。)は地方税法七二条の一四第一項に違反するから取り消されるべきである。

すなわち同項は、法人の事業税の課税標準の算定の方法に関し、原則として当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の算定の例によって算定するとしつつ、但し書(以下「本件但し書」という。)で医療法人又は医療施設に係る事業を行う農業協同組合連合会がする社会保険診療に係る所得の課税除外を規定しているが、本件但し書は、その文言に即して限定的に解釈すべきではなく、原告のような医療生活協同組合についても適用されると解釈すべきである。

すなわち本件但し書は、社会保険診療については、医療報酬の単価が社会的要請上低くおさえられていることの見返りとして考慮されたものであり、ひいては、これにより社会保険診療の保護育成に資することを目的として規定されたものであるから、その事業内容が社会保険診療を主とするものであれば、その事業主体が医療法人の形をとろうと、医療生活協同組合の形をとろうと、また個人事業の形をとろうと(個人の事業税については、同法七二条の一七に同様の除外規定がある。)、税法上の取扱いにおいて何ら差異を設けるべきいわれはないからである。右但し書に農業協同組合連合会が追加されたのは解釈上の疑義を無からしめるためのものに過ぎない。

6  本件但し書の規定が限定列挙ではないとする解釈は、東京都においてもこれを採用している。すなわち東京都は、昭和三二年一二月二一日付主課法発第九九九七号東京都主税局課税部長通達(以下「九九九七号通達」という。)及びこれを引き継いだ昭和四五年五月一日付四五主課法発第五〇〇号東京都主税局長通達(以下「五〇〇号通達」という。)によって、本件但し書に規定されている医療法人等以外の公益法人及び一定の人格のない社団についても右但し書を適用して、これら医療機関の社会保険診療報酬に法人事業税を課さないこととしている。租税法は強行法規であるから、課税庁として課税要件が充足する限り法令に従って課税し、徴税する義務があり、課税要件が充足されているのに、租税を減免したり、徴収を差し控えたりする自由を有しない。けだしこのように解さなければ、租税法の執行に当たって不正が介在するおそれがあるのみでなく、納税者によって取扱いが区区になり、税負担の公平が維持できなくなるからである。もとより通達は、それ自体が法源となるものではないから、東京都は、右各通達を発出するについては、本件但し書には公益法人等が包含されるとの公権的解釈を採用したというべきである。

7  仮に原告については本件但し書が適用されないとしても、租税法律関係において納税者は平等に取り扱われなければならないとする租税公平主義又は租税平等主義の原則は、憲法一四条一項が要求するところであり、租税法の解釈適用においては、とりわけ厳格に遵守されるべきものである。判例も税関が同一の物品に対して他の税関と異なる見解のもとに高い税率で関税を賦課、徴収していた事案につき、「みぎ課税物件に対する課・徴税処分に関与する全国の税務官庁の大多数が法律の誤解その他の理由によって、事実上、特定の期間特定の課税物件について、法定の課税標準ないし税率より軽減された課税標準ないし税率で課・徴税処分をして、しかも、その後、法定の税率による税金とみぎのように軽減された課税標準ないし税率による税金の差額を、実際に追徴したことがなく且つ追徴する見込みもない状況にあるときには、租税法律主義ないし課・徴税平等の原則により、みぎの状態の継続した期間中は、法律の規定に反して多数の税務官庁が採用した軽減された課税標準ないし税率の方が、実定法上正当なものとされ、却って法定の課税標準、税率に従った課・徴税処分は、実定法に反する処分として、みぎ軽減された課税標準ないし税率を超過する部分については違法処分と解するのが相当である。したがって、このような場合について、課税平等の原則は、みぎ法定の課税標準ないし税率による課・徴税処分を、でき得る限り、軽減された全国通用の課税標準ないし税率による課・徴税処分に一致するように訂正し、これによって両者間の平等をもたらすように処置することを要請しているものと解しなければならない。」と述べている(大阪高裁昭和四四年九月三〇日判決、高裁民集二二巻五号六八二頁)。この判例の趣旨に従うならば、被告が公益法人や権利能力なき社団に対しては、社会保険診療報酬の収益について課税上、軽減を認めながら、何ら合理的な理由もなしに原告についてのみ、これを認めなかったのは、明らかに租税公平・租税平等の原則に反し、この点に照らしても、本件処分は違憲違法であり、取り消されなければならない。

なお、公益法人及び人格のない社団等の社会保険診療報酬に法人事業税を課さない理由として、これらの法人等の公益性を根拠とするものであれば、収益事業から生じた所得に対する課税について、事業主体の公益的性格やその度合を考慮にいれる余地はないし、原告のような医療生活協同組合も公益性を有するから、これを除外する理由はない。このことは、個人の事業税について地方税法七二条の一七の規定がおかれていることの対比からも明らかである。

二  請求原因に対する答弁及び被告の主張

1  請求の原因1ないし4に記載の事実及び6に記載の各通達の存在を認め、その余は争う。

2  本件但し書の規定は、医療法人又は医療施設(政令で定めるものを除く。)に係る事業を行う農業協同組合連合会に適用されるものであって、適用される主体については、いわゆる限定列挙である。

このことは、

(一) 本件但し書の文言からみても限定されていることは明らかであって、例示的な規定の仕方となっていないこと(同法七二条の六二参照)、

(二) 本件但し書の規定については、昭和三二年の地方税法施行令の改正前から適用主体が限定列挙と解されていたこと、

(三) 本件但し書の規定については、昭和四二年の地方税法の改正において、医療施設(政令で定めるものを除く。)に係る事業を行う農業協同組合連合会が追加されたものであること(本件但し書の規定が主体について例示と解するのであれば、このような改正を行う必要がなかった)

等に照らせば、明らかである。

したがって、本件但し書の解釈としてその適用主体に関する通達を発する余地は全くないのである。

3(一)  原告主張の九九九七号通達及び五〇〇号通達はいずれも本件但し書の解釈に関するものではない。

(二) すなわち昭和三二年に法人税法施行規則が改正され、新たに医療保健業が収益事業に加えられた(右改正後の同規則一条の三第一項三〇号)。右規則の改正と同時に地方税法施行令が改定され、同法における収益事業の範囲を改正された前記法人税法施行規則に規定する事業によるものとした(右改正後の地方税法七二条の五第一、四項、同じく改正後の同法施行令一五条)。

右地方税法施行令の改正は、医療保健業を収益事業とするものであるから、公益法人等については、社会保険診療分の所得も、それ以外の自由診療分の所得も、すべて法人事業税の課税の対象とすることを意味するものであった。

ところで、同法は、これまで、公益法人の医療保健業を収益事業としてはおらず、したがって、社会保険診療分の所得も、自由診療分の所得についても非課税所得としていたものであり(前記改正前の同法七二条の五第一、三項、同じく改正前の同法施行令二〇条)、一方、医療法人については、社会保険診療分の所得は非課税とされ、自由診療分の所得のみ課税されてきたのであるから(昭和二九年法律第九五号による改正前の同法七四四条一一項、昭和二九年法律第九五号による改正後の同法七二条の一四第一項但し書。)、前記同法施行令の改正は、公益法人等と医療法人との税負担を逆転させることとなり、医療法人に比べ公益法人等の税負担を重くするものであった。

これを税負担率の面からみるに、昭和三二年四月現在、公益法人の場合は、所得のうち年五〇万円以下の金額は八%、五〇万円を超え一〇〇万円以下の金額は一〇%、一〇〇万円を超える金額は一二%とされ、一方、医療法人の場合は八%であったから(同法七二条の二二第一項)、公益法人等については医療法人よりも税負担が一層重くなることは明らかであった。

(三) ちなみに、法人税法においては、昭和三二年の同法施行規則の改正前は、公益法人については、医療保健業は収益事業とされてはいなかったことから、公益法人の行う医療保健業は非課税とされ、一方、医療法人はいわゆる普通法人として課税されていたので、地方税法の法人事業税の場合と異なり、施行規則の改正によっても公益法人と医療法人との税負担が逆転し公益法人の税負担の方が重くなるという問題は生じなかった。

このことを税負担の面からみても、公益法人の税率(昭和三二年四月現在、所得金額の三〇%)が医療法人の税率(同、一〇〇万円以下の金額は三五%、一〇〇万円を超える金額は四〇%)よりも低くなっていたので(当時の法人税法一七条一項一号)、公益法人が医療法人よりも税負担が重くなることはなかったものである。

(四) 右に述べたように、地方税法の法人事業税における公益法人等と医療法人との税負担の逆転は、従来は同法上の収益事業の範囲を、同法、同法施行令によって同法に定める一定の事業とされていたものを収益事業の範囲を拡げた法人税法施行規則によるものとしたことに起因するものであって、この公益法人等と医療法人との税負担の逆転問題は、これまでの法体系ないし税負担のバランスという見地から法の根幹にかかわる問題を含むものであったので、被告は、地方税法施行令の改正に際し、国に対してその指導を求めたうえ、九九九七号通達により、公益法人等が行う医療保健業についても社会保険診療分については医療法人と同様に取扱い、この場合の課税標準の算定については同法七二条の四一の規定によることと定めたが、公益法人等につき医療法人と同様の区分計算をした後の法人事業税の課税標準が法人の事業税の課税標準の算定方法について定めた同法七二条の一四第一項本文を適用した場合に比して不利益となるときは現行法上問題があるため、昭和三八年四月二二日付三八主課法第五〇八一号東京都主税局長通達(以下「五〇八一号通達」という。)によって九九九七号通達を修正し、公益法人等で医療保健業を行うものにつき、区分計算後の法人事業税の課税標準が法人税の所得をこえ、または欠損金に満たないようなものがあるときは、同法七二条の三九の規定による更正決定処分として取扱うことと定められたものであり、その後右五〇八一号通達の趣旨は五〇〇号通達に引継がれ、人格のない社団等で医療保健業を行うものに対する法人事業税の課税標準の算定についても公益法人等と同様の取扱いがされているのである。

(五) 以上のとおり九九九七号通達等の公益法人等及び人格のない社団等につき本件但し書を適用するようなかたちで処理する部分は本件但し書の解釈に関するものではなく、また右法人等の法人事業税の課税標準に関する部分は、いずれも公益法人等が行う医療保健業についての法人事業税の課税標準の算定に関する取扱いを定めたものに過ぎず本件但し書の解釈に関するものではない。

4  原告の一、7の主張の趣旨は要するに違法な事実上の措置により当該実定法の解釈が変るというにあるが、このような主張が、現行法上成り立ちえないことは明らかである。けだし、仮に右の見解に従うならば、右の違法な事実上の措置は、新たな国民の権利義務に関する一般的法規範の定立、すなわち立法作用にあたるというべきであり、したがって、当該措置は、国の立法はすべて国会を通し国会を中心にして行われるという憲法四一条、並びに租税の新設及び税制の変更は法律の形式によって国会の議決を要するという憲法八四条に各違反する結果を招来するからである。

また右主張は、九九九七号通達等が本件但し書の解釈に関するものであるという前提に立つものであるが、九九九七号通達等が右条項の解釈に関するものでないことは前項のとおりであり、原告の主張はその前提において失当である。

さらに、法人の公益性に関する原告の主張も誤りである。この点については、地方税法七二条の五の代表的法人である公益法人と消費生活協同組合法に基づく消費生活協同組合(原告も同法に基づく組合である。)との公益性の濃淡を比較してみると明らかである。

すなわち、公益法人は、公益(不特定多数の者の利益)の実現を直接の目的とし(民法三四条)、残余財産の帰属については定款又は寄付行為をもって指定した人に帰属し、このような指定をしなかった場合には主務官庁の許可を得て当該法人の目的に類似する目的のために財産を処分することができる等となっている(同法七二条)のに対し、消費生活協同組合は、組合員の生活の文化的経済的改善向上を図ることを目的とし(消費生活協同組合法二条)、組合は原則として組合員以外の者にその事業の利用を禁止し(同法一二条三項)、剰余金の割戻しが一定の制約の下に認められ(同法五二条)、さらに残余財産の分配が認められているのである(同法七一条)。

以上の対照諸事項に照らせば、公益法人が消費生活協同組合に比べ公益的色彩がかなり強い法人であることは明らかである。

したがって、九九九七号通達等が、地方税法七二条の五第一項に掲げる法人及び第二項に掲げる人格のない社団等に限定して、それらの者の行う医療保健業について課税の対象から除外し、消費生活協同組合のそれについて同様の措置を講じなかったことは、右両者の公益的性格の観点からみて相当の理由があるといわなければならない。なお本件但し書も、九九九七号通達等も適用されない法人には別表のようなものがある(法人税法別表第三参照)。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1ないし4に記載の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件但し書の解釈について

原告は、社会保険診療に係る収支を通算の対象となる損益から除外するものとしている本件但し書は、原告のような医療生活協同組合にも適用されるべきであると主張する。

一般に租税法の規定は、できる限りその文言に則して解釈すべきであって、みだりにこれを拡張し又は縮少して解釈すべきものでないことはいうまでもない。地方税法七二条の一四第一項は、法人事業税の課税標準たる所得の算定方法につき、法人税の所得の計算の例によりすべての損益を通算するのを原則としながら、本件但し書において例外的に医療法人等については、その社会保険診療に係る収支を通算の対象たる損益から除外するものとし、自由診療分についてのみ法人事業税を課すこととしている。このように、本件但し書は、ことに、一定の法人について、社会保険診療に係る収益を非課税としてこれを優遇することを目的としているのであるから、その適用範囲を拡大解釈することは許されないというべきである。しかるところ、本件但し書は、その適用対象を医療法人と農業協同組合連合会に限っており、その文言からすれば、右はいわゆる限定列挙であると解する他はなく、これを他の法人に適用するような解釈をする余地はないといわざるをえない。原告は、本件但し書は、社会保険診療の医療報酬の単価が社会的要請上低くおさえられていることの見返りとして設けられ、社会保険診療の保護育成に資することを目的とするものであるから、その事業主体によって取扱いに差異を設けるいわれはないと主張する。しかしながら、本件但し書が原告主張のような趣旨で、社会保険診療について一定の優遇措置を講じるものとしても、それをいかなる範囲の業務主体に対してどの程度行うこととするかは立法政策に属する問題であり、前記のとおり、本件但し書の文言からすれば、立法者はこの点については前記二法人に限り優遇措置を講ずる政策を採用したものと解する他はない。

三  本件但し書と九九九七号通達、五〇〇号通達等との関係について

次に原告は、本件但し書の規定が限定列挙ではないとする解釈は、東京都においても採用していると主張する。東京都の各課税庁あてに主税局課税部長が九九九七号通達を、後に主税局長が五〇〇号通達を発したことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、昭和三二年の法人税法施行規則、地方税法等の改正以前には、公益法人の行う医療保健業は収益事業とされていなかったため、これより生ずる所得について法人事業税は課されておらず、一方医療法人については本件但し書により社会保険診療に係る所得については課税除外とされていたが、昭和三二年政令第四六号による法人税法施行規則一条の三の改正により医療保健業が収益事業に加えられると同時に、同年政令第六二号による地方税法施行令の改正により同法上の収益事業は右法人税法施行規則一条の三に規定する事業とするものとされた結果、公益法人については、自由診療分も社会保険診療分もいずれの所得も課税の対象とされることとなったこと、そのため従来と逆に公益法人の方が医療法人より税負担が重くなることとなったが、税負担の均衡を図るためには、公益法人の行う社会保険診療についても本件但し書と同様の取扱いをすることが妥当と考えられたので、東京都主税局課税部長は自治庁税務局府県税課長の公益法人等についても本件但し書の適用については医療法人と同様の取扱いをすることが適当である旨の回答を受けて、昭和三二年一二月二一日税務(地方)事務所長、支庁長あて公益法人等についても医療法人と同様の取扱いをするよう九九九七号をもって通達したこと、医療保健業を行う人格のない社団で公益法人と同様に公益性のあるものについても同様に取り扱うこととして課税部長が昭和三三年五月二七日付で三三主課法発第四三五五号をもってその趣旨の通達を発したこと、これら通達の趣旨はその後東京都主税局長の発した五〇〇号通達に承継されているが、かかる取扱いについては法律はもとより条例に規定を設けたことはないこと及び原告同様に本件但し書も右各通達も適用されない法人として別表掲記のものがあることをそれぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、右各通達は、本件但し書が限定列挙であり、従って公益法人や人格のない社団に右規定が適用されないことを当然の前提としたうえで、課税実務上の取扱いとして右公益法人等に本件但し書を適用するのと同様の取扱いをしようとする趣旨に出たものと解すべきである。したがって、右各通達等の中で、公益法人及び人格のない社団等につき本件但し書を適用するようなかたちで処理すべき旨指示している部分は、本件但し書の解釈・適用を示したものではなく、本件但し書の適用とは別に行政上の処理方針を示したにすぎないものというべきである。そうすると東京都において本件但し書が限定列挙でないとする解釈を採用しているものではないから、原告の右主張も理由がない。

四  租税公平・平等原則との関係について

原告は、仮に本件但し書が原告のような医療生活協同組合に適用されないとしても、同様に本件但し書の適用されない公益法人や人格なき社団には、課税庁がこれが適用されるのと同様な取扱いを認めながら、なんら合理的理由なしに原告のような医療生活協同組合に対してはこれを認めないのは租税公平・平等の原則に反するから本件処分は違憲・違法であると主張する。

本件但し書と九九九七号通達、五〇〇号通達との関係は三において認定判断したとおりであるが、右認定にかかる各取扱いについては、たとえ法律改正の経緯から社会保険診療に係る所得に対する法人事業税につき医療法人と公益法人及び人格のない社団との間の租税負担が逆転し、不均衡が生じる事態となったとしても、地方自治体としてはかかる事態に対処するために地方税法六条・三条一項又は七二条の六二に則り条例をもって是正措置をとるのであれば格別、右認定の各通達のような、国民の権利義務に対し効力を及ぼすことのない行政命令により、課税庁内部における事実上の取扱いとして是正措置をとることの適法性については、租税法律主義の見地からは相当の疑問の余地があるというべきである。

しかしながら、かかる違法の疑いのある東京都の措置においても、原告のような消費生活協同組合法に基づいて設立された法人は、別表記載の法人と同様に、その適用対象としていないところ、原告の主張は、東京都においてかかる措置をとった以上は、信義則上当該措置を、同様の立場にある者にも拡大すべきであるとするのである。しかしながら、行政庁の違法の疑いのある措置については、信義則を理由としてその措置の一層の拡大を求めることの許されないことはいうまでもないところであるから、原告の右主張は到底これを採用することはできない。

なお、所論掲記の判例は、その判旨の妥当性はともかくとして、その事案は、全国の税務官庁の大多数が事実上特定の期間特定の課税物件について法定の税率等よりも軽減された税率等を適用して課税処分を行っていたが、たまたま特定の税務官庁においては法定の税率等を適用し、軽減された税率等を適用する措置がとられなかったという場合に関するものであるのに対し、本件の消費生活協同組合に関し一般に原告主張の措置がとられていないことは弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、本件とは事案を異にし、適切でないというべきである。

五  結論

そうすると、原告について本件但し書を適用しないものとしてした本件各処分には結局違法がないこととなるから、原告の請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 時岡泰 裁判官 中込秀樹 金子順一)

<以下省略>

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